ナウマンが「フォッサマグナ」を発見した場所・平沢峠で、「大地溝帯」を眺望

平沢峠

ナウマンゾウにその名を残す、明治時代初期のお雇い外国人で、ドイツ人地質学者・ナウマン。明治8年、21歳の若さで明治政府に招聘されて来日。地質調査を行なう最中、野辺山高原・平沢峠( 長野県南佐久郡南牧村)から見た壮大な光景に感動。そのダイナミックな光景を生み出した地形を「フォッサマグナ」と名付けています。

明治8年11月13日朝、ナウマンは「奇妙な地形」に遭遇

平沢峠

ナウマンは、来日直後の明治8年11月から3度にわたり、中部地方を精力的に巡検。
最初の調査は、中山道ルートで東京から佐久を経て野辺山に至ります。
中山道から千曲川を遡り、野辺山原(のべやまはら=野辺山高原)に。
そして11月12日、嵐の中で平沢集落に泊まっています。
11月13日の晴れた朝、平沢峠で大発見が待ち構えていました(平沢集落の野辺山側にあります)。

紀行文には「朝になって驚いたことに、あたりの景色は前日歩き回ったときとはまったく一変していた。それはまるで別世界に置かれたような感じであった」と記し、さらに「幅広い低地に面する縁に立っていた。対岸には3000mあるいはそれ以上の巨大な山々が重畳してそびえ立っていた。その急な斜面は鋭くはっきりとした直線をなして低地へ落ち込んでいた」と続け、「奇妙な地形を眼前にしていること」を確信したのです。

ナウマンが名付けた「フォッサ・マグナ」(Fossa magna)という名は、ラテン語でfossa は「地溝」、magnaは「大きな」という意味。
日本語に直せば大地溝帯となります。

ナウマンはフォッサマグナの出現によって日本列島の東西の地質事情が劇的に異なっていると確信するのですが、それを発見したのがこの平沢峠からのダイナミックな景観だったのです。

平沢峠は八ヶ岳の展望地として知られていますが、ナウマンは八ヶ岳ではなく、ここからの南アルプスに注目したのです。

平沢峠
平沢峠からの八ヶ岳

甲斐駒ヶ岳の基部には糸魚川-静岡構造線が走る!

そんな平沢峠は、八ヶ岳高原のなかでも野辺山と清里という有名な観光地の間にある小さな峠で、旧道(車道)が峠を越えていますが、訪れる人も少ない意外な穴場。

ここから南アルプスを眺めると鳳凰三山(薬師岳、観音岳、地蔵岳)から右奥に日本第二の高峰・北岳、さらに甲斐駒ヶ岳、鋸岳と続き、その手前には八ヶ岳の裾野が伸びています。
「対岸には3000mあるいはそれ以上の巨大な山々が重畳してそびえ立つ」という表現は、当時21歳という若さの地質学者としては、まさに正確で鋭い観察力だったことは疑いありません。

平沢峠から南アルプスを眺めて、一般人なら「きれいな景色だな」とは思いますが、「奇妙な地形を眼前にしていること」にはとても気づきません。

秩父・長瀞が地質学の原点といわれますが、実は平沢峠こそ、日本列島の地質構造発達史の本格的な議論が開始された原点といえるのです。

ナウマンが目にした甲斐駒ヶ岳の麓(平沢峠から眺めた場合はその手前側)にある釜無川に架かる国界橋(甲斐国と信濃国の国境/現・北杜市白州町)あたりを糸魚川-静岡構造線が通っています。
これがフォッサマグナ西縁で、ナウマンはこのことを瞬時に見出したのです。

現在では、単に日本列島を東西に二分するフォッサマグナ西縁というだけでなく、ユーラシアプレートと北米プレートの境界として位置づけられていて、この平沢峠の景観は東アジアの地実学にとって貴重な場所、第一級の活動的な地域ということになるのです。

ナウマンの時代はもとろんのこと、プレートテクニクス(1960年代後半以降に発展)が一般化するまでは、上下方向の重力運動で大地溝帯や日本アルプスが誕生したと解説されていました。
現在ではプレートの水平運動に起因するため、大地溝帯も西縁は明確ですが、東縁部は曖昧という説明も成り立つようになったのです。

平沢峠から遠望する南アルプスの北岳山頂付近で石灰岩が露頭するのも、かつてはその場所が赤道付近の海底にあったことの証。
プレートに乗って遠い南洋から運ばれた石灰岩(サンゴなどの堆積)は、今から100万年ほど以前から隆起を続け、10万年ほど前には、現在の南アルプスが誕生したと推測されています。
ナウマンの見つけたこの大地溝帯は、ようやく1980年代にどうして生まれたのか地質学的に解明されたのですが、なんとナウマンが発見してから100年の歳月を費やしています。

ナウマンが「フォッサマグナ」を発見した場所・平沢峠で、「大地溝帯」を眺望
所在地 長野県南佐久郡南牧村平沢
場所 平沢峠
ドライブで 中央自動車道長坂ICから約17km、須玉ICから約26km
駐車場 50台/無料
掲載の内容は取材時のものです。最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。
平沢峠

平沢峠

長野県南佐久郡南牧村、国立天文台野辺山宇宙電波観測所から平沢山の鞍部を越えて南の清里・千ヶ滝方面に至る八ヶ岳スケッチライン途中の峠が、平沢峠。清里・野辺山エリアでは屈指の八ヶ岳のビューポイントで、峠近くにはしし岩(獅子岩)もあります。佐久甲

平沢峠

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