【信州の池】中央アルプスにある氷河地形 濃ヶ池|宮田村

北アルプスには氷河公園・天狗池というアルペン的な池がありますが、中央アルプスの氷河が生んだ池が木曽駒ヶ岳山中の濃ヶ池です。中央アルプス駒ヶ岳ロープウェイで登った標高2612mの千畳敷からなら、中央アルプス随一の鋭鋒(ホルン)・宝剣岳に登り、駒飼ノ池を経由してトレッキング的に到達ができます。

中央アルプスを代表する氷河地形の場所にある秘池

濃ヶ池(標高2650m)は氷河時代に作られた氷河圏谷底湖。濃ヶ池カールのカール底に水がたまったものです。上の地形図を見るとハッキリわかりますが、南西に位置する駒飼ノ池(標高2710m)もカールの底。木曽駒ヶ岳の由来となった馬の雪形が出る上方の池が駒飼ノ池。つまり、駒飼ノ池も濃ヶ池も中央アルプス東面で、夏まで雪渓、雪田が残る場所なのです。

もうひとつ、上の地形図で注目が両方の池から右下に続く大きな谷。これが黒川谷で研究者の間では有名な「黒川氷食谷」なのです。氷食谷とは氷河の浸食作用で形成された谷。U字型の谷となるのでU字谷とも呼ばれます。
中央アルプスでは氷河時代に標高1900m、あるいは1800mあたりまで氷河に覆われていたと推測され、その結果、氷河によって削られたカールやU字谷が生まれました。

濃ヶ池から眺めた宝剣岳。乗越浄土の向こう側が千畳敷カール
濃ヶ池から眺めた宝剣岳。乗越浄土の向こう側が千畳敷カール

実は歴史ある木曽駒ヶ岳登山道の途中に位置している

この濃ヶ池、かなり昔(少なくとも江戸時代)から雨乞いなど信仰の対象になっていたことがわかっています。
江戸時代にはすでに『駒ヶ嶽一覧記』(内藤庄左衛門)、『駒ヶ嶽見分復命書』(阪本英臣)など高遠藩の見聞記録があるから、かなり古い時代から木曽駒ヶ岳は注目度が高かったことがわかります(それ以前にも木曽側から尾張藩士が登ったりしています)。

明治元年には大阪造幣寮(現・造幣局)の技師、ウィリアム・ガウランド(William Gowland)が「中央アルプス」と命名。地理学者・原田豊吉が木曽山脈と名付けたのはそれより後の明治22年のこと。
『日本アルプス登山と探検』を著したウォルター・ウェストン(Walter Weston)は来日2回目の明治24年夏、木曽側から木曽駒ヶ岳に登頂。濃ヶ池にも立ち寄っています。

明治40年には辰野・小横川宮木新町の講中が池の傍に青銅製の黒體竜王(黒体竜王)を祀っています。池の東端にある丘の上に、今でもこの龍神様が祀られています。

木曽駒ヶ岳のメイン登山道だった濃ヶ池、将棊頭山眺望
木曽駒ヶ岳のメイン登山道だった濃ヶ池、将棊頭山眺望

新田次郎原作の『聖職の碑』の舞台にもなった遭難現場

大正2年8月26日には、中箕輪尋常高等小学校(現・箕輪町立箕輪中学校)の遭難事件が発生します。
赤羽校長以下11名凍死という大惨事(木曽駒ヶ岳大量遭難事故)ですが、新田次郎はこの事件を現地取材し、『聖職の碑』として出版、昭和53年には鶴田浩二主演で映画化されて有名になりました。

遭難記では、清水政治(中箕輪高等小学校訓導=映画では三浦友和が熱演)と萩原三平が朝までビバークした岩が濃ヶ池近くにあります。また映画でも最後のシーンで現代の登山として濃ヶ池が登場します。

事件の教訓を活かして大正13年には、濃ヶ池小屋が建てられましたが、雪崩の頻発する場所のため、昭和4年で廃業しています。

さてさて、悲しい遭難事件を秘める濃ヶ池ですが、稜線から見ると蛇の縞のような筋が見えるので、縞池とも木曾の人々は呼んでいました。
なぜ濃ヶ池なのでしょうか?
実は、お濃という美女が姑に追い出され柳の杖を突いて濃ヶ池まで登り、池に身を投げて蛇となったという伝承があり、それが池の名の由来になっているのです。

悲しい伝説と、悲しい事件を秘める池、濃ヶ池。でもその池は日本アルプス屈指の絶景の池といえます。

紅葉時期の濃ヶ池
紅葉時期の濃ヶ池

 

濃ヶ池
名称 濃ヶ池/のうがいけ
所在地 長野県上伊那郡宮田村
電車・バスで JR飯田線駒ヶ根駅からバスで55分、ロープウェイで7分、徒歩2時間
ドライブで 中央自動車道駒ヶ根ICから約1km、バス・ロープウェイで1時間2分、徒歩2時間
駐車場 なし
問い合わせ 宮田村役場産業振興推進室 TEL:0265-85-5864/FAX:0265-85-4725
掲載の内容は取材時のものです、最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。

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